第19回 アート部門 優秀賞
The sound of empty space
メディアインスタレーション
Adam BASANTA
作品概要
制御されたマイクロフォンによって発生するハウリングを通じて、マイクロフォン、スピーカー、周囲の環境音の相関関係を探る作品。『The loudest sound』『Vessel』『Pirouette』で構成されている。この作品でマイクロフォンが増幅させるのは、人間の身体では耳と口に相当する、インプットとアウトプットの機器のあいだにある静音である。このとき、スピーカーとは音を発する装置であるという概念は成り立たず、いったい何がマイクロフォンによって増幅されているのか、という疑問が生まれる。欠陥のあるシステムを構築して機器間の伝達能力を無効にすることにより、耳はそのあいだの「空っぽの空間」に注意を傾けさせられる。つまり、増幅機器の位置関係を聞いていることになる。陳腐だが発明的、そして不条理でもあるこの寄せ集められた機器類を通じて、音は明確な存在や自律的な現象ではなく、物理的・文化的・経済的な相互依存的ネットワークのなかで生まれる、変化しやすい産物であることが明らかになっていく。
贈賞理由
空気は目に見えない。だからその存在についてつい見過ごしがちだが、聴覚にとっては最大のメディアである。『The sound of empty space』においてアーティストはこの「空っぽの空間」が音にとっていかに表現豊かであるかを、視覚的に知覚できるかたちで私たちに提示している。音が空気中を伝わる速度は1秒間に約330m、光の速度に比べあまりにも遅いため、空間の状態によって聞こえ方が変わる。つまり、私たちの耳は、「音を聞いている」ばかりでなく「空間を聞いている」のである。音を使用した作品が比較的多かった今回の応募作品のなかで、音を伝える空間に着目している点で、独自の視点を持ち、改めて音とは何かを私たちに考えさせる表現が、聴覚を超え、メディアとは何か?を考えさせる作品にもなっている。(藤本 由紀夫)