第16回 エンターテインメント部門 優秀賞
あさっての森
映像作品
三木 俊一郎
作品概要
CMディレクターとして活動した10年間の貯金と経験を注ぎ込み完成させた完全自己資本映画。舞台はサイズの異なる人々が共存する静かな村。銃を片手に幻の生物ピンキーパンキーを追う少女。ミニチュアサイズの店で働く女。男の乳首を吸う毛むくじゃらのクリーチャー。透き通るような白い肌に変な果物を実らせた木の精。村の上空を浮遊する巨大な逆ピラミッド。異常と正常の境目のない世界のなかで浮かび上がってくる借金、報われぬ愛、不倫、幸福の追求といった日常的問題の数々……美しく変態的で夢想的な新感覚のSFコメディ。『あさっての森』は、物語を追う映画というよりも感覚的に体験する映画と言える。デヴィッド・クローネンバーグが『テレタビーズ』を監督したらこんな作風になるかもしれない。
贈賞理由
この映像作品は言葉にしづらい。ミステリアスな森で起こる奇怪なワープ現象、不思議なポコという植物、魅惑的な植物少女、「夢いじり」に翻弄される若者、おじさん、クセのある美人3姉妹。物語に乗っていこうとしても必ずストーリーを脱臼させ、腑に落ちるオチには収束させない。サイズの異なる人々の共存、エロくてフェチな特殊造形など視覚的仕掛けも盛りだくさんなのだが、謎を解くような手がかりはまったくない。
これは、安易な解釈を許さないという強靭な意志を貫くために、絶妙な演出に気を配り、かなり高度な映像技術を駆使している。親しみやすさ、伝わりやすさ、わかりやすさがエンターテインメントの王道だとすると、まったくその逆の裏エンターテインメントもたくさん存在することも無視するわけにはいかない。それを証明するかのように、この悪趣味なサービス満点の映像作品が突出していると評価された。刺激的な映像作品の応募が低調だったなかでこの作品が気を吐いている。