第21回 マンガ部門 優秀賞
銃座のウルナ
単行本・雑誌
伊図 透[日本]
作品概要
一年のうち、わずかしか晴れることのない風雪にまみれる島、リズル。そこに世界の覇権を握る国家レズモアの女性狙撃手、ウルナ・トロップ・ヨンクが赴任することから物語は始まる。島は歯茎がそのまま歩いているような異形の蛮族ヅードの住む地と定められており、ウルナの仕事は、雪の中から襲い来る彼らと戦うことであった。しかし、ウルナと同じく基地に赴任する生物研究者・ラトフマはヅードと秘密裏に通じていた。密会の現場の目撃者となったウルナは、ヅードのグロテスクな姿の秘密と、レズモアの持つ国家的な陰謀に、極限の地での戦いを通じて近づいていく。これまで『ミツバチのキス』(2008-09)、『エイス』(12-14)などで、熱狂的な人気を獲得してきた作者によるSF作品。白い雪の豊かな質感や、襲いかかるヅードたちの迫力など異世界の戦場が、高い作画技術によって活写されており、読む者を強く引き込む。
贈賞理由
人間を殺すのは難しい。物理的にもだが、心安 らかに眠るために美しい言い訳が必要だ。「いっ そ相手を人間じゃなくせば簡単じゃないか」そん な実験を思いついた者も人間ではないモノに なっているだろう。世界を簡単にさせたしわ寄せ は辺境でどす黒くたまっていく。故郷を守るため という女と、故郷を捨てるためという女がともに 戦う。どちらにしても「国家」が作ってくれた物語 に乗っかっているのだ。いつか自分の物語だと自 覚した世界でウルナが銃を撃つ日が来るのだろ うか。その相手は何なのだろうか。伊図透のマン ガには世界観がある。世界を作ってはいるが神 の視点では見ていない。どこまでも疑わしい「真 実」を求め、世界の地下も塔の上も泥の中も這 いずり回る捜索こそが創作なのだと思う。この マンガはその世界での戦争の証言なのだ。これ からも彼が見てきた世界を存分に見せてほしい。 (松田 洋子)