Photo: Kenji Agata

第24回 アート部門 新人賞

VOX-AUTOPOIESIS V -Mutual-

メディアパフォーマンス

小宮 知久[日本]

作品概要

リアルタイムに生成される楽譜を演奏者がその場で演奏する「VOX-AUTOPOIESIS」シリーズのひとつ。演奏者の声を分析したデータを楽譜生成のアルゴリズムとして用い、生成された楽譜にそって演奏者が歌うことで、演奏と生成が繰り返される。楽譜は歌われた4秒後を常に生成し続け、演奏者は自らの4秒前の痕跡を歌い、同時に4秒後に歌うべき音を声によって記譜することになる。本作は2人の演奏者によって相互に楽譜が生成されることで、新たなポリフォニー(独立した複数の声部で構成された音楽)を紡ぎ出す。さらに、機械との協調により演奏の上達がみられるという機械と身体の新たな関係性や、従来とは異なる記譜のあり方も提示している。

贈賞理由

機械と人間の協働の可能性を、ライブエレクトロニクスのなかで実践することで、音楽の形式やその構造に問いを投げかけている。2人の演奏者が対面し即興で発する声、歌われた声の痕跡として自動生成される楽譜、これらは過去―現在―未来の時間軸のうちで相互に関係しながらも、一方向性ではない時間のなかで複合的な織物のように共存する。楽譜は声の記録であると同時に、未来に生み出される声を創造する源泉にもなる。従来の楽譜と演奏の関係を換骨奪胎し、その構造を批評的に検証し、新たな構造を作出している点に本作のダイナミズムがある。(田坂 博子)