第20回 マンガ部門 優秀賞
有害都市
筒井 哲也[日本]
作品概要
「表現規制」をテーマに、現代社会における表現の自由の問題に一石を投じる作品。2020年、オリンピックを目前に控え、「浄化運動」と称した異常な排斥運動が行なわれ、猥褻なもの、いかがわしいものを排除するべきだという風潮が強まっている近未来の東京が舞台となっている。そこでは、マンガも過激な性表現、暴力・残虐表現、反社会・反権力的な描写が含まれていると、「有識者会議」によって青少年に悪影響を与えるとされる「有害図書」に指定され、販売が規制されるようになっていた。そんな状況下で、「食屍病」という人の屍肉を食べたいという抗しがたい欲求にかられる病の蔓延を描く作品を発表するひとりのマンガ家・日比野幹雄(ひびのみきお)がいた。日比野は自分の描きたいマンガが規制を受けずに世に出る方法を模索する。ストーリーは、規制が強くなっていく現実世界と日比野が描くマンガの荒廃した世界が同時に進行し、ときにシンクロしながら展開していく。
贈賞理由
審査委員の意見が大きく割れることなく、ほぼ全員が高評価をつけての贈賞となった。ストーリーテリングの巧みさ、画の達者さなど、前作『予告犯』(集英社、2011─13)でも感じられた作者の「うまさ」が光っており、「マンガの表現規制」という、情熱だけでは描き切れない本作のテーマが最良のかたちで表現されている。また本作は「マンガ家マンガ」でもあり、作者自身の表現規制への思いも筆が乗ってか、緊迫感が最後まで続く。そして本賞が「文化庁」主催であるからには、我々審査委員にマンガの表現規制をどう捉えるのか、という問いを真正面から突きつけた、ともいえるだろう。実際に読んでいるあいだ、そのことをつねに問われているような切迫感があったが、物語に没入するようにどんどんページを繰ってしまった。マンガというメディアは、内容にどんな社会的意義があろうと、教育的な内容であろうと、大前提として「おもしろい」ものでなければならないはずである。本作もまた、そのための工夫に満ちているおもしろいマンガにほかならない。(門倉 紫麻)