第23回 アート部門 講評
バイオ・アート、バイオ・メディア、そしてバイオ・ポリティクス
文化庁メディア芸術祭アート部門の審査委員としての2年目はさまざまなことがありました。あいちトリエンナーレでの一連の出来事が日本とオーストリアの国交樹立150周年を記念するウィーンの「Japan Unlimited」展へも波及することによって、日本のメディアアートコミュニティや、文部科学省と繋がりのあるアーティスト、文化活動に従事する人々は困難な立場になってしまいました。私が審査委員を今年度も続けることには、メディアアートに関する公開討論などで発言をするなどして、彼ら若いアーティストをサポートし、励まし、力になれればという思いが背景にあります。 選考の場面では、私自身が作家活動をしていますので、作品が最終的な形に至るまでの手順を想像し、どのように作品が生まれるのかの思考プロセスを洞察することができたと思います。時には興奮し、がっかりすることもありましたが、ほかの審査委員の考えを知り、議論をするなかで、作品を何が特別なものにしているかを理解することに時間をかけました。こうして選ばれた作品は、審査委員の関心と視点を反映しています。ある作品は特定の審査委員と、また、ある作品は複数の審査委員と共鳴します。そして、稀なことではあ りますが、審査委員全員と共鳴する作品もありました。今年は、アート作品としてのコンセプト、使用されている技術、作品に見られる現代的テーマなどから判断し審査を進めました。作家にとって困難なのは、丁寧につくられていること、新しさ、現実との関係性を持つだけでなく、高いレベルでバランスのとれたものをつくることです。このバランスを見つけた最良の例として、これまで奇跡と解釈されてきた生物学的プロセスを用いた作品が大賞に選ばれたことを嬉しく思います。この受賞によって、メディアアートの概念を拡張、再定義し、錬金術的な方法で生み出されるメディアアートが歓迎されることを示していきたいと願っています。