16回 エンターテインメント部門 講評

エンターテインメント=未来の予感

技術や産業と密接に結びついたエンターテインメントの世界は、メディア芸術の4つの部門のなかでもとりわけ変化が速く、これからのメディア芸術の世界を予感させる作品が、数多く応募される部門です。今回、大賞を受賞した女性3人組のテクノポップユニット「Perfume」をめぐる、一連のイベントとそのリアクションは、まさに今日のエンターテインメントを象徴する事件と言ってもよいでしょう。モーションキャプチャや距離センサー、画像解析を巧みに使って、身体や衣装に密着した印象的な表現を行なうだけでなく、何といっても特筆すべきなのは「Perfume global site」というウェブサイトを通じて、彼女らのモーションキャプチャデータを公開し、ファンが思い思いに活用できるようにしたことです。ここ何年か、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及やCCライセンスの拡がりによって生まれつつある共有の文化が、いよいよ経済や産業と直接結びついてきたことを実感させてくれる、今回の大賞受賞に相応しいチーム活動であると言えるでしょう。それだけでなく、ハードウェアとソフトウェアが見事に統合された、人型四脚エンジン駆動の巨大ロボ『水道橋重「KURATAS」』、脳波とガジェットをポップに結びつけた『necomimi』、超巨大なポリゴン立体を軽々と操作できる緒方壽人の東京スカイツリーでの展示、デジタル・ファブリケーションやFacebookの裏側を楽しくチクリと見せてくれるヌケメの『グリッチ刺繍』やIDPWの『どうでもいいね!』など、大きいものから小さいものまで、ハードなものからソフトなものまで、クリエイティブ・カオスと呼べるほどの若々しいごちゃまぜ感が、特に印象的でした。もちろん、映像やゲームといった、伝統的なメディアを用いた作品には、豊穣な熟成や繊細なディテールを感じさせるものも多く、それがまたこの分野の懐の深さを感じさせてくれました。未来は予感のなかにあります。そして今回のすべての応募者に、エンターテインメントという未来が開かれています。どうもありがとう!

プロフィール
久保田 晃弘
アーティスト/多摩美術大学教授
1960年、大阪府生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科メディア芸術コース教授。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。工学博士。衛星芸術(artsat.jp)、バイオアート(bioart.jp)、デジタル・ファブリケーション(fablabjapan.org)、自作楽器によるサウンドパフォーマンス(hemokosa.com)など、さまざまな領域を横断・結合するハイブリッドな創作の世界を開拓中。主な著書に『消えゆくコンピュータ』(岩波書店、99年)、『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』(共著、大村書店、2001年)、『FORM+CODE─デザイン/アート/建築における、かたちとコード』(監訳、ビー・エヌ・エヌ新社、11年)、『ビジュアル・コンプレキシティ─情報パターンのマッピング』(監修、ビー・エヌ・エヌ新社、12年)、『ジェネラティブ・アート―Processingによる実践ガイド』(監訳、ビー・エヌ・エヌ新社、12年)、『Handmade Electronic Music ―手作り電子回路から生まれる音と音楽』(監訳、オライリー・ジャパン、13年)などがある。