第25回 エンターテインメント部門 講評
続・審査委員問題と さまざまな悩み
今年は昨年に比べ、リアルタイムのネット配信ものやゲーム類が少し減った印象でした。部屋の中での活動が少し落ち着いたということなのでしょうか。今回の審査は事前に絞り込まれた作品のなかから選んでいくことになり、一つひとつの作品を丁寧に見ることができたと思います。
この2年審査をしてみて非常に悩ましかったのが、多岐にわたるジャンルを審査するのに自分は適切な人間なのだろうか、という問いです。もしくは、適切な人間なんていない場合「さまざまな専門家のチームで審査をする」のがベストで、実際そのように運営されているのですが、そのなかでどこまで自分の意見を通すのかという難しさもあります。
一方、今回の大賞作品の『浦沢直樹の漫勉neo ~安彦良和~』はすんなりと満場一致で決まったと記憶しています。私も放送をみていたのですが、安彦さんの人生の経験が蓄積された迷いのない筆さばきに驚嘆し、歳を重ねても精力的に創作する姿に励まされました。さまざまなマンガ家の技術や仕事ぶりなどを記録し伝えるこの番組は非常に重要で、個人的に今後とも続けてほしいと思っています。難民や移民についての作品『Dislocation』と、視覚障がいのある人の走りを助ける『Project Guideline』については個別に贈賞理由を示しましたので割愛させていただき、最近個人的に審査や作品制作において多くの人と話しあう機会が欲しいと思うことがあるのでそれについて触れたいと思います。
もしプロパガンダがアートの問題提起やエンタメという糖衣で上手にコーティングされたときに、それを見分けることができるのかということです。それはメッセージや批評と何がどのように違うのでしょうか。
表現の自由を担保するということと、他者や弱者に被害を及ぼすことにつながる表現について、私たちの認知や行動に変化を促す技術・メディアの使われ方や表現について、改めて私たちは冷静に批評的に考えてゆかねばならないし、勉強をしなければと考えています。