第18回 エンターテインメント部門 講評
デザインの力
ゲーム、映像、ガジェット、アプリ、ウェブとまさに昨今のメディアの多様化を象徴するような「エンターテインメント」部門だが、そんな中でも今回の応募状況の特徴としてまず挙げたいのが、映像作品の量及び質の向上だ。YouTubeやVimeoがテレビを越える日常の映像メディアとなった今、一般の人々の映像に対するアクセシビリティは格段に向上した。子どもが環境の中で言語を獲得するように、今の若者はインターネットから映像言語を(暗黙のうちに)獲得する。「デジタルネイティブ」とは(メディア芸術の側面から見ると)映像ネイティブということでもある。
もうひとつのポイントは、エンターテインメント部門の受賞作品の多様さを横につないでいるのが(「文化庁メディア芸術祭」の中では明示されていない)「デザイン」である、ということだ。本年度のエンターテインメント部門の大賞である『Ingress』は、もちろんひとつのゲームではあるが、それと同時にアプリでもあり、ウェブでもある。そこにはすべて「デザイン」という視点が含まれている。ゲームデザイン、アプリ(の)デザイン、ウェブデザイン......更には、そうした多様なメディアを統合することが「デザイン」であると総称することもできる。何もこれは『Ingress』に限ったことではない。優秀賞の『のらもじ発見プロジェクト』も(『Ingress』同様に)世界と地域をつなぐストリートデザインであり、ダウンロードできるフォントや精緻に作られたウェブページも、デザイナーのみならず多くの市民にとって、今という時代における優れたデザインの事例となるだろう。
今日のデザインを特徴付けているキーワードが「オープン」「ソーシャル」「ハイブリッド」であるとすれば、新人賞の『Auto-Complain』はまさにその典型例といえる。学生たちにはよく「アートにデザインを使え」「デザインにアートを使え」と言っているが、デザインは目的とする表現に到達するための手段であると同時にガイドラインである。日本で最も優れたデザイン賞は、実はこの「文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門」の中にある。