第24回 エンターテインメント部門 優秀賞

0107 – b moll

映像作品

近藤 寛史[日本]

作品概要

実写を素材とし、実験的なアプローチで映像を制作する作者の短編作品。同作は電車の車窓の光という都市の生活者にとっては既視感のあるモチーフを、高解像度で撮影することによって、日常的な見え方とは異なる感覚的なズレを生み出すことを意図している。数多くの光によって構成されている都市には、その明るさとは裏腹な個人の孤独が共存している。そうした生命のあり方を車窓の光とアナロジカルに捉え、それらが変容していくさまを映し出す。Ayako Taniguchiのミニマルで機械的要素を併せた音楽とともに夜に行き交う電車は乗客を運びながらも、さまざまな交差のバリエーションを見せている。並走する電車の距離感の変化や立体的な動きなど、異化されたこれらの光景は、⽬に⾒えないエネルギーを視覚化し、現実を⾮現実的に感じさせることによって、記憶のなかの既視感を更新させる。作者は車窓の⼩さな光の数々に、明るく輝く⽣命⼒を見出そうとしている。

贈賞理由

何の変哲もない日々が、宇宙に瞬く星のように息吹を上げた美しい映像作品だ。電車の窓の光は彗星のようで、行き交う街並みが生きている。今作は日常の光をモチーフにした作品のなかでもシンプルなもので、命の音がポツポツと聞こえてくるかのようだ。右に左に光は移動し、向こうからこちら側に光が投げかけられ魅了されていく。グラフィックデザインの構成も大変美しい。特にラストシーンの小さな窓が瞬きをするように重なりながら闇に溶けていくところは胸を鷲掴みにされた。まさに、映像によって無機質なものに生命力を与えている。そもそも作者のこれまでの作品も当たり前の景色を少し別の角度から照らし、目に見えないものを映し出しているものが多い。リアルとファンタジーを見事に混在させられる実力者だ。今回、映像・音響作品の審査のなかで最も好きだと思えた作品である。(森本 千絵)