第20回 アート部門 優秀賞
Jller
Benjamin MAUS / Prokop BARTONÍČEK[ドイツ/チェコ]
作品概要
産業オートメーションと地史学をつなぐ研究プロジェクトから最初に発表された本作は、河川の小石群を地質年代で分類する装置である。小石は、ドイツのウルム市近郊でドナウ川と合流する直前のイラー(Jller)川の底から採取された。この装置は約2m×4mの台に広げた小石を、画像認識システムで自動的に捉え、あらかじめ設定された基準となる石と特徴を比較し、地質年代を推定する。次に産業用バキューム付ロボットアームにより、作業スペースを確保しながら、簡易的な分類を行ない、種類と年代順に並び替えていく。河川の小石は特徴的な組成や構造を持つため、その来歴は一定の精度で分析可能となる。イラー川における多様な地質年代の小石は大きく2つの出自を持つ。すなわちアルプス山脈での侵食から生じた岩に起源を持つものと、氷河で粉砕され、運ばれてきた岩石である。本作は小石と河川の歴史が織りなす豊かな時間の層を、無機質な機械音とともに描き出している。
贈賞理由
東京大学でロボット工学を学んだドイツの作家と、ロボットの祖国チェコ出身の作家とがコラボレーションし、「モノを蒐集しソートする行為が、原初の人を人たらしめた要因」という考えに基づき、彼らの言う「極めて複雑かつ無益なマシン」を創造した。XYプロッタを思わせる装置は7,000個もの小石をコンピュータビジョンで捉え、産業用バキューム付ロボットアームで配列する。神聖ローマ帝国の古都、ナポレオンやアインシュタインゆかりの地としても知られる学園都市ウルムに程近く、大河ドナウに合流するイラー川の畔で採取した小石を、マシン学習によるアルゴリズムで識別分析し、映画『サイレント・ランニング』(1972)のように人間の介在なしに時間の層を可視化していく。サイトスペシフィックかつ普遍的性格、地史と人工知能─メタ的な時空間の視点に立つ作品群が目立つなか、相反する要素を見事に併せ持つ作品は、メディア芸術領域においてこそ評価すべき稀有な存在である。(森山 朋絵)