第18回 アート部門 新人賞
A Tale of Tehrangeles
映像インスタレーション
Anahita RAZMI
作品概要
本作はチャールズ・ディケンズの小説『A Tale of Two Cities(二都物語)』に着想を得た、テヘランとロサンゼルスの視覚的コラージュである。タイトルにある「Tehrangeles(テランジェルス)」とは、ロサンゼルス地域に在住するイラン人移民の国外最大のコミュニティの俗称であり、本作ではこの呼称に関連づけてパフォーマティブな比較論を展開する。作品は都市風景のコラージュを映す二つのスクリーンと、チャールズ・ディケンズの小説の序章を読み上げる作家の姿が映る解説モニターから構成される。テヘランと「Tehrangeles」という二つの都市の視覚的共通点、差異、断絶が浮き彫りになり、やがて領土的・歴史的な境界が曖昧になり、ひとつの物語として鑑賞者に語られる。
贈賞理由
イラン系ドイツ人の作者は、長引く米国とイランの緊張関係のさなか、両国の文化的・社会的差異を浮き彫りにする作品を既に数点、手掛けている。本作はむしろ逆に、多民族や多文化が入り交じり融合するグローバル社会に生きる人々と都市の共通性を提示する手法で、現代の不条理を描き、問いかける。緑の空間でニュースキャスターのように自らが読む2都市をテーマにしたチャールズ・ディケンズの小説の言葉にも、人生と世界の両極の行く末が予感のように暗示される。明快なコンセプトに基づく秀逸な構造化と完成度が、今後の活動を期待させる。(岡部 あおみ)