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©今井哲也/徳間書店

第17回 マンガ部門 新人賞

アリスと蔵六

今井 哲也

作品概要

『不思議の国のアリス』とは逆に、特殊な能力を持った少女が、現実の日常世界に放り込まれるという設定のもとに描かれるファンタジー。少女「紗名」は「想像したものをすべて現実に出現させることができる」万能な超能力の持ち主。そのために研究所に閉じ込められ、研究対象となっていた。そこから脱走した彼女は初めて「外の世界」を知るが、幼くて未熟なため、自分の持っている能力を使いこなすことができない。途方にくれる彼女が出会ったのは、由緒正しい日本の頑固じいさん「蔵六」。超能力も何も関係なく「悪いことは悪い」と真正面から説教してくる「蔵六」との出会いが、「紗名」の運命を、そしてこの世界の運命をも大きく変えていくことになる。

贈賞理由

超能力や宇宙人などを描く奔放な想像力と、日常の生活を細やかに描き出す描写力の両立が、まず特筆される。この両者は、異質な他者が出会い、相互の理解に至ろうとするという主題と呼応する。また、ノスタルジックな視線に捉えられがちなSF的な設定などを現在の水準で語り直し未来に向け投影する営為は、物語の可能性を示してくれる。更に、的確な空間把握による画面と、ミスマッチにも見えるラフな描線の組み合わせは、描線の流麗さに過剰なコストを要請されるマンガ表現に対して、将来の別の可能性を示唆するものであろう。(伊藤 剛)