第20回 アニメーション部門 優秀賞
Among the black waves
短編アニメーション
Anna BUDANOVA[ロシア]
作品概要
古代ケルトの伝説をもとにした短編アニメーション作品。古代ケルトでは溺れ死んだ人々の魂はアザラシへと姿を変えるとされていた。とある夜のこと、その魂たちがアザラシの毛皮を脱ぎ少女の姿で泳いでいたところを、影からこっそり覗く漁師がいた。彼は少女の美しさに心惹かれ、毛皮を1枚盗みアザラシに戻れないように隠し、自分の妻としてしまう。毛皮がないと彼女は普通の人間だった。やがて夫婦には娘ができ、幸せな毎日を送りはじめる。しかし彼女はいつもどこか寂しげに、飽きることなく海を眺め続けているのだった。ある日、娘は母のものであったアザラシの毛皮を見つける─。セリフがまったくないにもかかわらず、墨絵のように筆致の際立った画面により、彼女の海への思いと悲しみが表現されている。
贈賞理由
長編と短編の違いでもあるのだが、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(監督:トム・ムーア、2014)と同じ題材を扱っているのにまったく違うテイストの作品になっているのが個人的にはおもしろかった。元になっている物語は世界中の民話や神話に同じような話がある普遍的なものなので、展開がどうなるかは推測できてしまうし、現代人の感覚としては多少不合理を感じてしまう点もあるのだが、それを忘れさせる、あるいは不合理だからこそ、男女の、そして親子の心情が画面から迫ってくるような感動があった。荒い動きも力強く魅力的で、実写や3DCGではやりにくい2Dアニメーションならではの画面展開も美しかった。ほぼモノクロームの画面だが、時折入る差し色のような色使いも効果的だった。そしてざらついたタッチが、アニメーションが一枚一枚手で描いたものの集積だということを意識させ、多くのカットが構図も美しく重厚で、絵としての力強さも感じさせる傑作だ。(木船 徳光)