第17回 マンガ部門 新人賞
塩素の味
バスティアン・ヴィヴェス/訳:原 正人
作品概要
脊柱側湾症を患い、かかりつけの運動療法士の勧めでプールに通うことになった少年。最初のうちはあまり気のりしない彼だったが、泳ぎの上手な少女を見かけ、彼女と親しくなる。毎週水曜日、プールで逢瀬を楽しむ二人。彼女に惹かれていくにつれ、水泳そのものの魅力にも目覚めてゆく彼だったが……。アングレーム国際漫画祭で新人賞を受賞し、バンド・デシネ(フランス語圏のマンガ)界がその才能に注目した表題作の他、恋人同士のたわいない会話やすれ違いを、一貫した「僕」の視点で描く『僕の目の中で』を収録。バンド・デシネ界期待の新星、バスティアン・ヴィヴェスがみずみずしい感性で描く、少し“しょっぱい”ボーイ・ミーツ・ガール物語。
贈賞理由
水の中の心地よさが感覚的に伝わってくるのが素晴らしい。泳ぎがだんだん上達していくときのフォームの変化、背泳ぎして見上げる温水プールの天井の高さ……抑え気味の色や線によってそれらがさりげなく丁寧に描かれる。一方、同時収録の『僕の目の中で』は、主人公の見る少女の愛らしさを、かわいい色鉛筆で多くの色を使って表現している。表現することの喜びが伝わってくるような1冊だ。バスティアン・ヴィヴェスはまだ20代後半の、今まさにバンド・デシネ界が注目する新鋭。新人賞にふさわしい作家である。(ヤマダ トモコ)