第19回 エンターテインメント部門 大賞
正しい数の数え方
音楽劇
岸野 雄一
作品概要
本作は、子どもたちのための音楽劇であり、人形劇+演劇+アニメーション+演奏といった複数の表現で構成される、観客参加型の作品である。2015年6月、フランス、パリのデジタル・アートセンター「ラ・ゲーテ・リリック」の委嘱作品として上演された本作は、1900年のパリ万国博覧会が舞台となっている。公演のため日本からパリを訪れた「川上音二郎(かわかみおとじろう)一座」が、万博のパビリオン「電気宮」に現われた「電気神」が観客にかけた呪いを解くため、「正しい数の数え方」を求めて旅へ出る冒険物語である。古来から存在する人形劇というアナログな手法と、インタラクティブなテクノロジーが随所で融合し、物語は展開していく。同年に東京で行なわれた公演では、作者率いるバンド「ワッツタワーズ」の生演奏も加わり、より挑戦的な試みが行なわれた。舞台芸術の可能性の拡張に挑んだ意欲的なエンターテインメント・ショーである。
贈賞理由
これまでに数限りない地下文化貢献活動に取り組んできた勉強家(スタディスト)=岸野雄一は、この作品で新派劇の父=川上音二郎をモチーフに、子どもたちとのインタラクティブな交流を写しだす演劇装置を生みだした!岸野の「演芸/演劇」の魂には、批評性と実験性が染み込んでおり、これまではハイコンテクストとしてとらえられていた節もあるが、本作では見事に幼年層を巻き込んで大衆性を帯びたのだ。「つくって遊び、数えて学ぶ」これらエデュケーショナルな精神は、実験を超越したシミュレーショニズムとして、昭和の子ども番組から受け継いだ正統な系譜でもある。また、これまでのメディア芸術祭受賞者も紛れ込んだ6人のアニメーターとのコラボ動画が舞台の背景を固め、これら舞台装置そのものが映像史をも飲み込んだ、文字通りの「メディア」と化している。この全身勉強家の複合芸術を“メディア芸術”と呼ばずに何を“メディア”、そして“芸術”と呼ぶのか?本作は、昭和でも平成でも、そして未来でもなく、お手軽なテクノロジーに埋没しない原初的なアニマが脈打っているのだ!(宇川 直宏)