第16回 アート部門 優秀賞
欲望のコード
インタラクティブアート
三上 晴子 [日本]
作品概要
『欲望のコード』は「データとしての身体」と「ここにある肉体」との境界線が曖昧になっていく現代の状況を表現したインタラクティブ・インスタレーションとして3つの構成で展開される。白い壁面に広がるのは、昆虫の触毛を思わせる小型カメラを搭載した90個のストラクチャー★1。そして、天井からは、カメラとレーザープロジェクターを搭載した6基のサーチアーム★2が吊られている。各装置は、昆虫が蠢くように、観客の位置や動きをサーチして動き出し、観客を監視する。さらに、会場の奥には、昆虫の複眼のような直径4.7mの円形スクリーン★3が位置し、それぞれのカメラの映像データは、世界各地の公共空間にある監視カメラの映像とともに、独自のデータベースを構築し、過去と現在、会場と世界各地の映像が、複雑に交錯しながら、スクリーンに投影される。このように時間や空間を断片的に組み変えながら、新たな現実を描き出す複眼。それは、観客自身を監視と表現の対象とした、情報生態系に増殖する欲望であり、そこにある私たちの現在における身体の存在感覚を表現している。
贈賞理由
自らが「見る」と同時に「見られる」対象となる情報化した現代を、3部構成の壮大なインスタレーションによって体感させることに成功している。昆虫の触覚のようにうごめくストラクチャーや、ビデオカメラを備えたサーチアーム、複眼のようなスクリーンといった疑似生命体のごときマシーンが、鑑賞者の姿を捉え、公共空間の監視カメラの実映像と組み合わせて映し出すことで、「生身の肉体」と機械の目によって捉えられた「データ化した身体」の境界が曖昧になる世界を表現に結実させ、私たちに示唆する。人間の知覚、さらに欲望がテクノロジーの介在によっていかなる変化を迎えているか、作家の徹底した探求は、震撼とさせる事実を突きつけるクールさと強靭さを供えている。