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第17回 マンガ部門 優秀賞

ひきだしにテラリウム

九井 諒子

作品概要

ウェブ文芸誌での連載を経て、著者の3冊目の単行本となった本作は、最短で2ページ、最長でも11ページという、コンパクトなページ数で完結する作品を集めたショートショート・コミック。年に一度の“ 龍猟”を習わしとしている里山で龍料理を食す『龍の逆鱗』、長い冬が続く村の一人の青年が春を探して森を歩く『湖底の春』、「まる」「さんかく」「しかく」を料理して食べる過程を描く『記号を食べる』、人間誰もが物語の主人公として生まれ暮らす世界の『ショートショートの主人公』、架空国家についての中学生たちの話し合いが展開していく『遠き理想郷』、とある生物の進化の過程を描いた『生き残るため』など、全33編を収録。コメディ、昔話、寓話、ファンタジー、SFなどさまざまな発想を、少女マンガ風や劇画調のタッチも織り交ぜての多彩な絵柄で描きあげる、千変万化の掌編集。

贈賞理由

2011年から12年にかけて短編集『竜の学校は山の上』『竜のかわいい七つの子』が続けて刊行され、ファンタジーを現実に引き寄せる手法、時代や舞台設定の自在さで読者に驚きを与えた著者。13年には、更に1冊に何と33ものショートショートが詰まった単行本『ひきだしにテラリウム』が刊行された。「もし○□△などの記号が食べ物だったら……」「エッセイマンガとそのマンガの現実を、絵柄を変えて描いたら……」といったテーマに応じて巧みに変化する画調を含め、短くとも変わらないどころかより濃くなった創作意欲あふれる内容で、読者にうれしい驚きを与えた。そこには脳みそを直接もみしだかれるような快感がある。それ以前にも同人誌やお絵かきSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「pixiv」、自身のウェブサイトなどでの創作活動があるとはいえ、商業単行本で3冊目というキャリアなら新人賞でもおかしくはない。だが、続けて発表された作品群のまさに「優秀さ」が、優秀賞にふさわしいと判断された。(ヤマダ トモコ)