第21回 アート部門 大賞
Interstices / Opus I – Opus II
映像インスタレーション
Haythem ZAKARIA[チュニジア]
作品概要
砂漠の風景を捉えた静的な『OpusI』と、海の風景を捉えた動的な『OpusII』は、それぞれの映像にデジタル処理を行うことで、オリジナルの風景を超越する「メタ・ランドスケープ」を引き出すインスタレーションプロジェクトである。タイトルの「Interstices(すき間)」はラテン語の「interstitium」(inter「~の間」+ sistere「立つ、置く」)から派生しており、空間的な間隔のみならず、時間的な間隔をも意味している。横長のアスペクト比で制作されたモノクロームの風景映像の上には、同じくモノクロームで表現される四角や直線などの図形が重ねられ、風や波音の自然音が断続的に響く。こういった要素により、本作では、自然に隠された秩序やリズムが明らかにされる。作者の故国チュニジアが位置し、作品の舞台でもあるアフリカ北部のサハラ砂漠一帯は、ヨーロッパへの移民や国境といった政治的・国際的な不安要素を複合的に抱える地域だが、この作品からは人間の姿や人間の活動の痕跡は取り除かれ、独自の秩序を持つ自然の姿のみが浮かび上がる。時間と空間が抽象化された映像は、土地/風景の本質とは何かを問いかけている。
贈賞理由
応募作品を鑑賞していると、テクノロ ジーを駆使して感覚を驚かせる作品と、感覚を通して思考を揺さぶる作品の大きく2種類に分かれるように思われる。Haythem ZAKARIAの作品『Interstices/Opus I – Opus II』は後者を代表する作品である。「風景」とは、物理的に存在するものではなく「読みとるべきもの」であることをこの作品は教えてくれる。あたかも哲学書のページをめくるように、一つひとつのシーンが静かに、そして過激に、鑑賞者に思考を促している。地平線や水平線の続く具体的な画像と、抽象的な形、そして音までが「ランドスケープとは?」「パースペクティブとは?」と鑑賞者に問い掛けている。他の応募作品に比べ静的なこの作品は、徐々に審査委員の興味を引いていき、大賞に選出された。メディアが感覚の拡張だけではなく、思考も拡張させる重要な役割を持 っていることを実証したこの作品が選ばれた意義は大きい。(藤本 由紀夫)