第23回 アート部門 大賞
[ir]reverent: Miracles on Demand
メディアインスタレーション、バイオアート
Adam W. BROWN [米国]
作品概要
人間が自然界のすべての生物を支配しているという物語や、人間が神のイメージでつくられたという宣言は、私たちの歴史が人間以外のものの影響を受けているという事実を見えなくさせてきた。本作は、肉眼では見えない微生物が人間の歴史と信念体系に与える影響を調べるインスタレーションである。作品は、中世のローマカトリックの聖体顕示台にインスピレーションを受けた形状のインキュベーター(温度などの成長に必要な条件を一定に保つ機器)で構成されている。まず、インキュベーターの眼のような部分に、キリストの名前を象徴する「PX」の刻印を施した薄いパンを、聖体に見立てて配置する。その後、血液に似た粘性のある液体を生成するセラチア・マルセッセンスという微生物を含む培養液をインキュベーターに送り、パンに滴下。そこで培養された微生物は粘性の赤い液体を生成して、パンを「出血」させる。このように、何世紀も前に教会で見られたような、血を用いた「奇跡」が生み出される。他の種と人間との絡み合いが私たちの歴史をどのように形成するかを問い、人間が特別な存在であるという価値観を揺さぶる作品。
贈賞理由
Miracle(奇跡)とは、「神の成せる技」であり、自然や科学の法則には従わず、説明不能な謎であり、我々人間以上の力を持つ存在(唯一または複数の神)が存在することの表れである。奇跡は我々を見守るだけではなく、現実世界に干渉する。本作品が表現しているのは、血がもたらす奇跡の歴史である。血の涙を流す立像、突然血が流れ出すパンなどが描かれている。無生物から血が流れ出すことは説明不能であり、不条理で、神からのサイン、すなわち奇跡としか解釈できない。この作品では、血の奇跡を赤い細菌を培養することで再現し、理由を探り科学的な説明を試みている。観客も「オンデマンド」で血の奇跡を起こし、パンに接種された赤い細菌は育ち、やがて血のような外観となる。これまで説明できなかったことが、微生物学により解明される。奇跡を起こすために神は必要ではなく、我々も科学によって奇跡を起こせるが、実は真の支配者であるバクテリアの力だけは必要なのだ。(ゲオアグ・トレメル)