©︎ Hiroyuki Ohashi / Rock’n Roll Mountain / Tip Top

第24回 エンターテインメント部門 大賞

⾳楽

映像作品

岩井澤 健治[⽇本]

作品概要

『シティライツ』(講談社、2011-12)、『夏の手』(幻冬舎、2012)などの作品で知られるマンガ家・⼤橋裕之の『音楽と漫画』(太田出版、2009)を原作とした長編アニメーション映画。物語は楽器を触ったこともない不良学⽣たちがバンドを組むところから始まる。登場人物たちの掛け合いや、オフビートな演出はユーモラスですらあるが、そうしたトーンは終盤のダイナミックなアニメーションによって一変するだろう。作者は約7年半の時間を費やして自主制作に取り組み、手描き作画にこだわった。完成した映像は実写映像を基に作画を行うロトスコープの手法を用いており、大橋の個性的なキャラクター造形に存在感が与えられている。野外フェスのシーンではステージを組み、実際に観客を動員したライブを行いながら撮影を敢行するなど、柔軟な発想で制作が進められた。声優には、ゆらゆら帝国でボーカルを務めた坂本慎太郎を主人公に据え、駒井蓮、前野朋哉、芹澤興人、平岩紙、竹中直人らが脇を固めており、彼らの演技も見どころのひとつとなっている。シンプルなエンターテインメント性を追求した同作は評判を呼び、新宿武蔵野館ではおよそ10カ月にわたるロングラン上映となった。

贈賞理由

バンドで経済的に成功するまで、あるいは文化的に挫折するまでを描いた作品は、過去膨大にあった。しかし、バンドで最初に音を出したときの、ふっと軽くなる瞬間。生物が魂を宿したような、例えようのない時間をズバリとらえた作品は皆無だったように思う。作者自身が、一人で絵コンテや作画を7年もの歳月をかけてつくり上げたことと、結果として素晴らしいエンターテインメントが生まれたことは、無関係ではない。だが、必然でもない。同じように苦労して生み出された芸術作品は、数多くある。VFXやAR/VRなど多くの技術が点在する現代において、ロトスコープという古典的な手法で生み出されたアニメーションが、例えようもない時間を一番鮮明な形で残しているのが興味深い。驚くべきことに、この作品はまだ商業的に成功していない。審査委員としての任期最後の年、この作品を文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞に選べたことを、誇りに思う。(川田 十夢)