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クラリネット:鈴木生子|作曲・プログラミング:福島諭|展示協力:高橋悠
+香苗(Tangent Design Inc.)

第18回 アート部門 優秀賞

《 patrinia yellow 》for Clarinet and Computer

メディアパフォーマンス

福島 諭

作品概要

本作は、女郎花(オミナエシ Patrinia Yellow 学名:Patrinia scabiosifolia)という植物の一年の周期を表現した、クラリネットとコンピュータによる楽曲とそのライブパフォーマンスである。2013年に韓国で初演された本作は、クラリネット演奏と、その一部をリアルタイムで録音した音、更にその音源をコンピュータで処理した音で構成される。11分の楽曲は三つのパートに分かれており、第1部と第2部はクラリネットとコンピュータの共演、それに挟まれる中間部はコンピュータのみによる独奏となっている。本作の作曲法では、題材となった植物がもつ生命の循環/伸縮/リズムをさまざまなスケールで表現すべく、楽器演奏とコンピュータによる音の組織法、パラメータが緻密に設定されている。本作は、リアルタイムの演奏と、その録音データをデジタル処理して楽曲を制作する「リアルタイム・サンプリング」という手法を植物の生態的な周期になぞらえ、現代音楽における独自の音楽論を探求する試みだといえる。

贈賞理由

普通なら作曲コンクールに応募されたであろう、このような「音楽」作品がこの「文化庁メディア芸術祭」に送られてきたことをうれしく思う。それだけではなく、作品の完成度はもとより、テクノロジーを使う意味や現代に生きる僕たちにとっての「美」とは何かを問いかける真摯な姿勢が、「音楽」ではない数多くの応募作品と比較して卓越していた。更に、このような作品を作品として規定する記譜法(きふほう)や技術解説を含む精緻な記述、言わば「コンピュータ音楽のエクリチュール」にも強い必然性と説得力があり、作者の独創性が感じられた。(三輪 眞弘)