第9回 アニメーション部門 優秀賞
死者の書
劇場アニメーション
川本 喜八郎 [日本]
贈賞理由
まぎれもない傑作である。我が国を代表する人形アニメーション作家で人形美術家である川本喜八郎監督が、文学者折口信夫の原作を構想から30年の時を経て、人形アニメーションの大作に昇華させた。8世紀の奈良を舞台に、ひたむきに生きる藤原南家の郎女と非業の死を遂げた大津皇子との魂の邂逅を通して、人間の執心と解脱を荘厳で幻想的な物語に紡いでいく。人形アニメーションという、途方もない時間と労力と感性によって構築された神秘的で豊饒な世界は、観客を魅了してやまない魔法の力をもっている。これほどの人形アニメーションに、今後しばらく出合うことは難しいだろう。人形たちが織り成す美しい沈黙の中に、80歳を迎えた川本監督の強い意思と高い志を感じずにはおれない。