第21回 アニメーション部門 新人賞
舟を編む
テレビアニメーション
黒柳 トシマサ[日本]
作品概要
三浦しをんの同名小説を原作に、黒柳トシマサが丁寧な映像表現でアニメーション化した。玄武書房の中型国語辞典『大渡海』編纂の長い道のりを描く。口下手だが言葉への鋭い感性を備えた馬締光也と、言葉に入り込むのは苦手だがコミュニケーション能力の高い西岡正志。周辺の人間模様を交えながら2人が成長していく姿を中心に捉えることで、複数の媒体で展開されている本作の世界観を守りつつ人物像を掘り下げることに成功している。おびただしい活字があふれる「言葉の海」や、静かに回転し続ける観覧車のイメージは、音声や背景を含めた画面全体で主人公たちの心情を伝えるアニメーションならではの印象的なシーンをつくっている。
贈賞理由
奇をてらわず正攻法で丁寧な演出が本屋大賞受賞の原作のよさを引き出している。辞書づくりを通した主人公たちの成長と友情が心地よく、何より人間の機微が上手く描かれている。ゆったりした作風に合った作画と美術、パンフォーカスのすっきりした絵づくり、控えめに入るイメージショット、心地よい薀蓄などが、言葉を紡ぐ温もりのある物語を支える要素となっている。なお原作や映画版に比べるとキャラが薄めで熱さも控えめだが、これもスタイルとなってテレビ版独自の世界観を確立している。破天荒作品も好きだが正統派作品の清々しさを感じた。(西久保 瑞穂)