第12回 アニメーション部門 大賞
つみきのいえ
短編アニメーション
加藤 久仁生 [日本]
作品概要
水に囲まれつみきを積んだような部屋でひとりの老人が暮らしている。水没している階下にパイプを落とした彼は、それを拾うためにもぐり、それぞれの部屋に刻まれた家族の思い出にめぐりあう。いまはいない妻、娘、なつかしい人々の大切な記憶が静かなタッチで描かれ、純度の高い心にしみる作品となった。地球温暖化のテーマも秘められている。
贈賞理由
すでに国内外のいくつかのアニメーションフェスティバルでも入賞を果たしている本作品、なにがその受賞理由だろうか?繊細かつ郷愁的な絵世界、セリフや説明を排しながらも端的に伝わるストーリー、地球環境的な設定などいろいろあると思うが、表現自体が斬新で先鋭的ということではない。作品の佇まいもけっして派手ではない。しかし作者の人間に対する温かいまなざしと「想い」が観る人の心にしみる。アニメーション表現が多様化する昨今、つくり手がなにを目指し、なにを目的として制作するかが大きなポイントである。芸術性、実験性、娯楽性、大衆性など、目指しているパラメーターはつくり手ごとにちがうだろうが、本作には国境や世代をこえて観た人を魅了する普遍性と豊かさがある。この普遍性こそ、国内ではまだ認知度の低い短編アニメーションの在り方の新たな可能性、さらには表現行為のひとつの意義を示している。