第18回 アート部門 優秀賞
これは映画ではないらしい
メディアインスタレーション
五島 一浩 [日本]
作品概要
従来の映画や動画を成立させる「コマ(静止画)」の連続とは異なり、「コマの無い動画カメラ/映写機」によって「動く画像」を生み出す作品。本作ではこれまでの映画/動画の基本概念を問い直す、かつてない画期的なシステムが考案・実証されている。本作のカメラ兼映写機は、二眼レフカメラの対物レンズと、光ファイバーの束、ファイバーを通った光を露光するフィルム、フィルムフォルダーをスライドさせる手動ハンドルなどが内蔵された箱型の構造物である。撮影時、格子状に植え付けられた324本の光ファイバーは、324画素のドットの役割を担う。ハンドルを回して内部のフィルムフォルダーをスライドさせることで、ファイバーを通った光がフィルムに露光される仕組みとなっている。このフィルムを撮影時と同様にスライドさせることで、光の線として記録された動画を再生することができる。
贈賞理由
幼少時にパラパラマンガを作った経験や、スマートフォンで動画を撮影・公開する習慣を持つ我々にとって「動画」は無意識のうちに日常に溢れており、その定義に疑問を持つことは稀であろう。「静止画」の連続性によってもたらされるのが「動画」そして「映画」だが、この関係性を再検証し、「静止画」の連続性を伴わない「動画」の可能性を提示するのが本作のテーマである。作者の五島一浩は、二眼レフを活用し、撮像部に取り付けた光ファイバーによってイメージを画素という情報として、フィルム上に記録する。ファイバー1本の光の明度や変化が1本の線として露光され、またそのフィルムが再生される。当然のように捉えていた「動画」の定義は「コマのない動画カメラ/映写機」により揺らぎ、論を俟(ま)たずにいた我々に「これは映画ではないらしい」と五島からの諧謔(かいぎゃく)精神が突き付けられるのだ。(植松 由佳)