13回 受賞作品アニメーション部門Animation Division

大賞

優秀賞

奨励賞

審査委員会推薦作品

審査講評

  • 樋口 真嗣
    今年の長編やTVシリーズを中心とする商業ベースの作品は、原作ものではなくオリジナルの企画が多く印象に残った。 既存のコミックや小説の商業的成功に依存せずにゼロから物語、企画を立ち上げ、商品として観客に提供するために必要な体力、胆力のボリュームは同じつくり手として素直に敬意を表さざるを得ない。とりわけ、現代へのテーゼを含む次代に向けたTVシリーズとして始まり、来年公開の2本の映画で完結する 『東のエデン』の圧倒的な物量でありながら見事に制御された情報の可能性に期待したい。 その一方で今回入賞した作品を凌駕する可能性のある作品が応募されていない残念な現実も忘れてはならない。自薦が原則なので仕方ないが、今まで完結していない物語に対して評価を保留してきた結果なのだろうか。 企画そのものが大型化する風潮の中、1年ごとのタームのどの段階でどう判断するのか、評価する側も試される時がきたのかもしれないのだ。
  • 野村 辰寿
    アニメーション作家
    選外となった「惜しい」推薦作品(主に短編)について記しておきます。思春期のヒリヒリするような痛い心象を不快の極みとも言える表現で描ききった『HAND SOAP』は、その完成度、オリジナリティに票が集まったのですが、その芸術性と品位などで喧々諤々の討議の末、惜しくも入賞にはいたりませんでした。『忘却星の公式』も、透明水彩で胎内回帰ともいえるインナートリップを女性目線でつづった力作だったのですが、語り口や心情への共感の有無などで意見が割れました。『Lizard Planet』『ひとりだけの部屋』は、とても巧くつくられた気持ちのいい作品で最後まで接戦でした。悪意ほとばしる『フジログ』の家族には、個人的に楽しませていただきました。 なにせ審査委員もつくり手のため、好まざるを評価しつつも、最後の選択は、やっぱり好みになってしまいます。しかしながら、媚びることなく己の道を極めた作品には心を打たれます。自分も道を極めねば!と思う今日この頃であります。
  • 木船 園子
    アニメーション作家
    スペインの砂をアニメートした短編アニメーションの秀作『No corras tanto (Take It easy)』がOVAのカテゴリーで応募されていたり、『センコロール』は商業アニメーションの表現スタイルでつくられDVDが流通にのったことで短編ではなくOVAではないか? と議論されるなどの混乱もありながら、年齢、プロ、アマ、国籍といった垣根を取り払って評価するスタイルがこの芸術祭ならではのユニークな点です。短編では、デジタル化により巧みにつくりこまれている作品も多く感心するのですが、作者の熱気や汗臭い手触りが薄れつつあるようにも感じました。そんな中でこつこつと立体アニメーションをつくり続けて完成した『電信柱エレミの恋』に脱帽。注目された作品『HAND SOAP』での性的な表現についての議論で、アニメーションだから避ける、嫌悪するという考え方はなく、内容への共感を得たこと、純粋に作品として高く評価されたことが印象に残っています。
  • 幾原 邦彦
    アニメーション監督
    「心」 の時代だ。エントリー作品の傾向を見てそう感じた。選外だが『青い花』は時代の気分をうまくすくい上げている。大部分の人にとって人生とは「あなたじゃない」「あなたは間違えている」といわれ続けることだ。そんな世界で生きる僕たちに「そのままのあなたでいい」という出会いの奇跡を『青い花』は見せてくれる。『HAND SOAP』は審査委員の間でも意見が別れた。グロテスクな作風で、現代アートには以前からこの種の表現はあったが、それがついにアニメーション表現にも登場したと感じた。これを「面白い」と観るか「不快」と観るか。審査の議論はまさにそこだった。今回は選外となったが、表現の広がりにおいては注目の1作だった。短編については昨年の『つみきのいえ』の影響だろうか、視聴後に「映画的」な印象を残す作風が多かった。そのことが短編の質を向上させるのか、あるいは似通った作品ばかりにしてしまうのか。今後の短編の傾向に注目したい。
  • 鈴木 伸一
    アニメーション監督
    今回のアニメーション部門には外国からの応募も含めて、これまでで一番多い473本の応募があった。今年の応募の特徴として商業的な作品(長編、TV用、OVA)より、短編作品の数が増えたことだった。これはパソコンによるアニメーション制作ソフトの普及と、大学などでアニメーションを学ぶ若い人の増加と無関係ではないだろう。中国、韓国などがアニメーション産業に力を入れていて、追われる立場になりつつある日本のアニメーション業界にとって良い兆しといえるかも知れない。さて、メディア芸術祭では応募という形式をとっているので、巷では評判が高い話題作でも応募していただかなければ審査の対象にはならない。大賞の『サマーウォーズ』は今年の大きな話題作であったし、内容も制作技術もやはり大賞にふさわしい作品だった。細田守監督は3年前の『時をかける少女』に続く2回目の受賞だが審査員全員が認めるところとなった。優秀賞は議論百出、結局は表現、内容が個性的なものへ集約していった。外国からの2作品が選ばれたことは、それだけこの芸術祭が海外にも知られ優秀な作品の応募が来ている証拠といえるだろう。国内の受賞作はそれぞれ特徴をもった作品になった。実験的なもの、いつ発生するかわからない超大型地震の悲劇を扱い警告的な意味を含めた作品、そして懐かしい風景の中に展開される切ない恋物語...。この他、限られた数の賞には入らなかったが優れた作品が多かったことを報告しておきたい。