13回 受賞作品マンガ部門Manga Division

大賞

優秀賞

奨励賞

審査委員会推薦作品

審査講評

  • 村上 知彦
    神戸松蔭女子学院大学教授
    最終審査に残った作品はどれも個性豊かで、マンガという表現の広がりと奥行きの深さを改めて実感する選考となった。入賞作以外にも論議に上った作品は多く、それらにも一言ふれておきたい。若手、中堅の清新な作品に早い段階で票が集まり、そのぶんベテラン勢が一歩を譲る結果となったが、村上もとか『JIN―仁―』、諸星大二郎『未来歳時記 バイオの黙示録』、安彦良和『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』など、いずれも作者の代表作に数えられる秀作といえよう。とりわけ、くらもちふさこ『駅から5分』は、ネット社会といわれる現代の人と人との関わりをマンガならではの表現でとらえた意欲作。小さな町に住む、世代も職業もばらばらな人々が、日々の営みの中でゆるやかにつながりあっていく。また、いがらしみきお『かむろば村へ』が描き出す、貨幣を拒否した青年が体験する一種のユートピアも、人の心が引き起こす奇妙な事象に彩られた特異な読後感で強く心に残った。
  • 細萱 敦
    東京工芸大学准教授
    今回から審査に参加させていただきましたが、ちょうど政府のポピュラーカルチャー政策の転換点ともいうべき時期にあたって、また大学マンガ学科教員という立場に、私自身が最近転じたこともあっていろいろと考えさせられました。ご存知のとおり、今マンガ文化を支えているのは、信じられないほどのアマチュア作家の数ではないでしょうか。また読み手の日常的なメディアへの指向が、紙媒体からデジタルへ大きくスライドしています。要するに、この賞にも5年後、10年後にはノンプロ作品やノンブックのマンガが横行するようになっていくことが予想できます。それを考えると、今回のWeb部門や自主制作部門への応募数の少なさに対して、非常に危機感を感じてしまうのは私だけでしょうか。世間にマンガ学校やマンガ学科が増えているのに、それらに対してまだまだこの賞自体のアピールが行き届いていない気がします。
  • 永井 豪
    マンガ家
    審査会は、多くの候補作の中から、5人の審査委員が、賞の対象として推す作品を5作品ずつ挙げ、それぞれの作品の良さをアピールし、議論した。複数の審査委員の評を獲得した5作品が、優秀賞以上の候補として選ばれ、そのうちの1作品を、大賞に推すことになったのだが、それぞれが、多くの候補作から選び抜かれた傑作ぞろいであるため、議論白熱!決め手に欠ける展開となった。そこで、それぞれの作品のマイナス面を議論し合う、いわば審査委員同士の足の引っ張り合いをすることとなった。傑作、名作から、マイナス面を突く議論は楽しいものではないが、そこを一歩抜け出した作品こそが、欠点の少ない作品といえる。こうして、何人かの審査委員が"あまりの王道"と発言していた『ヴィンランド・サガ』が大賞に選ばれた。
  • さいとう ちほ
    マンガ家
    ここ数年、あまり新作マンガを読んでこなかった不肖のマンガ家の身の上で、このメディア芸術祭の審査に臨みました。審査は自由度が高い分、責任も重く思われ、100冊近くの本を目の前にした時には、少しめまいが...。最終審査に残った25作品は、ほとんどが未読。仕事を抱えながら短期間で読み切るのは確かに大変でしたが、どれもが高水準で密度の濃い作品で、美味しすぎて早食いしてしまうのがもったいないほど充実していました。特に歴史物とサイエンス・ファンタジー系の、重さと格調のある上位作品の出来には審査を忘れて引き込まれました。最終審査では、他の審査委員の先生方のご慧眼に眼をひらかされながら、大いに迷いました。上位を競った作品は、未完の大作ながらどれも甲乙付けがたく、結局、私的には好みを優先させた作品選びとなりました。改めてマンガの多様性と面白さに興奮し、審査委員として参加できたことに、誇りを感じた貴重な時間となりました。
  • しりあがり 寿
    マンガ家
    今回もマンガ部門にたくさんの作品が寄せられました。 Webマンガのジャンルに寄せられた作品は携帯電話やWebの可能性を追求した、新しい時代を予感させる様々な試みにあふれ、コマ・自主制作マンガではプロアマ問わず、その多様さ、レベルの高さに目をみはり、ストーリーマンガでは例年にも増して、個性的でマンガの「今」を象徴するような作品が並びました。その結果、受賞作の選考は喜ばしいことですが大変な接戦になりました。特に優秀賞以上5作品は、時代をするどく切り取った意欲作あり、マンガの表現を広げる才能あふれる作品あり、熟練作家の力作あり、どれもが新しい視点と丹念な取材、研ぎ澄まされた技術によって描きあげられた傑作で、大賞の選考は『ヴィンランド・サガ』と『へうげもの』の間で評価が拮抗しました。前者は北欧の歴史をテーマに真っ向からエンターテインメントの王道に挑み、後者は日本の戦国史ではありながら「器」という全く新しい視点から当時の歴史人物をいきいきと描きました。どちらもが大賞にふさわしく、審査会も大いに湧きましたが、一票差で『ヴィンランド・サガ』が栄誉を射止めました。大変充実した選考だったと思います。私ごとですが、今回審査の過程でたくさんの素晴らしい作品と出会えたのは大きな喜びでした。これらの作品が、賞をきっかけに少しでも多くの人の目にふれ、マンガの可能性をひろげることになるように心から願っております。