13回 受賞作品エンターテインメント部門Entertainment Division

大賞

優秀賞

奨励賞

審査委員会推薦作品

審査講評

  • 桝山 寛
    限られた時間(と経費)の中で、ゲームを評価するというのは、もとより困難な作業であり、誰もが納得する手法や基準というのは、おそらくないのだと思う。私は、ゲーム作品の場合"映像ではなくゲームとして"とらえることに注力し、気になったタイトルは、極力"自分でさわってみる"という方針で審査にあたった。ゲームから映像表現の優れたものが選ばれ、ほかは"ゲーム以外"となったのは、あくまでも"結果的に"である。ゲームは、ビジネスとしても文化としても、変革期にある。世代や国によっては"ゲーム"といえば、携帯電話で遊ぶものという認識が当たり前かもしれない。ゲーム市場の主流が、いわゆるゲーム機向けのコンテンツでなくなる可能性すら、否定はできない。SNSが提供する無料ゲームや、狭義のゲームとはいえない"ソーシャル"なコンテンツ。多くのゲームを審査しながら、"応募されないコンテンツ群"のことを考えさせられた年だった。
  • 斎藤 由多加
    ゲームデザイナー
    文化庁メディア芸術祭は、名前は固いですが、その応募作品は、実にユニークで楽しいものばかりのオンパレードです。審査会で多くの作品に触れていると、いま世界のアートシーンがどんな流れにあるのか、それが手に取るようにわかり、その意味で審査委員はとても恵まれた機会に触れることができます。今回の受賞作には、昨年に引き続きゲーム作品の受賞が少なかったわけですが、これもゲームというメディア芸術がひとつの壁にぶつかっている現象のあらわれだと私たち審査委員は感じていて、次なるブレイクスルーを待っている時期ではないかと思っています。その台頭として、Web作品や映像作品の分野の発展には目を見張るものがありました。受賞作品をみていただければわかるとおり、デジタルがより人間的なものとして生活の中に優しく根を下ろし始めた実感を与えた今年のメディア芸術祭であったように思うのです。
  • 後藤 繁雄
    京都造形芸術大学教授
    この分野は、各メディアの「可能性」と、人を何らかの形で活性化させるエンターテインメント性が掛けあわされ、なおかつ、新しい挑戦があるものが選ばれるべきだと私は考える。ゲーム領域はたしかに、ある種の「成熟」といえるほどの感動的な完成度を持っていたが、そのメディアでなければできないことへの果敢な姿勢が見られた映像やWebに比べ、「可能性を拓こう」という意欲が感じられるものがなかった。『PEPSI NEX 歌おうぜ!キャンペーン』や『INFINITY』は、優れていて最後まで優秀賞に入れたかったことを追記しておきたい。ファインアートの進展が、ある種の堂々巡りの回路に入ってしまっている中で、ますます「メディア」を軸に考える「アートエンターテインメント」は、実に重要な領域になるだろう。それは、「コンテンツ開発」という明確なベクトルを持ちうるし、グローバルな言語性が試されるからだ。ジャンルなどの先入観にとらわれず、ぜひ来年もこの部門への挑戦をしてもらいたい。
  • 内山 光司
    クリエイティブディレクター
    一次審査と最終審査の間に『THIS IS IT』を見ました。マイケルの遺作となったこの映画に、マイケルが彼のバンドの「表現したい音」ではなく「観客の期待する音」に近づけるためにリハの途中で執拗にアレンジを修正するシーンがあります。僕はそこに、King of Entertainmentの矜持を感じ取りました。つまり、エンターテインメントとは、表現者の表現を押しつけるだけではなく、まずはユーザーの「期待」に応え、その上で気持ちよく裏切らなくてはいけない、と。そこがアートとエンターテインメントの大きな違いではないか。僕は上質なエンターテインメントとは、常に表現者とユーザーの中間に成立するものだと思います。その点でいうと、やはりゲームは強い。人を魅了するという力では、ゲームに比べると映像での表現は一段格落ちします。さらに広告はもう一段格落ちします。どうしても送り手の主張が先に立ってしまうからです。残念ですが。
  • 河津 秋敏
    ゲームデザイナー
    今年のエンターテインメント部門の特徴は、エンターテインメントらしい楽しい作品が多かったことだ。先進的な技術を取り入れた実験的な作品の価値は高いが、エンターテインメントとして人々を満足させるためには、こなれた技術を大胆に用いる必要がある。そういう視点で見ると、YouTubeが当たり前になった時代の作品が並んでいると感じる。人々はYouTubeを通じて手軽に面白い映像を視聴できるようになった。より手軽により楽しいものを求める傾向は強まるばかりだ。大賞の『日々の音色』はYouTubeでも高い評価を得ていたが、YouTube的でありながら高い技術と作家性を打ち出した点が素晴らしい。大賞以外は議論もあったが、一分野に偏らない結果になった。要素技術の精度の高さが評価された『scoreLight』を除くと、ゲーム・Web・映像とそれぞれに完成度の高い作品が並ぶことになった。奨励賞の作品も含め、作者の皆さんの努力に敬意を表したい。映像はHD化し、ネットワークはブロードバンド化し、そういう方面での新技術の普及は一段落したようにも感じる。完成度の高い作品の受賞という傾向がしばらく続きそうな予感もあるが、枠にとらわれない破天荒な作品の出現を望みたい。