16回 受賞作品エンターテインメント部門Entertainment Division

大賞

優秀賞

新人賞

審査委員会推薦作品

審査講評

  • 中村 勇吾
    インターフェースデザイナー/tha ltd.
    観客の設定
    新しい作品を初めて知る機会をソーシャルサイトでのクチコミに負う割合がますます増えてきている。自分のタイムライン上で発生した作品をリアルタイムに体験することと、どこか別のクラスタで発生した作品を後で知るのとでは、どうしてもその距離感は違ってくる。
    「エンターテインメント部門」という、メディア芸術祭のなかでもとりわけふんわりとした作品カテゴリーを含むなかで、がっつりとマスを相手にしたエンターテインメントと、淡々と自分のフォロワーだけを相手にし続けているようなエンターテインメントが、まったくもってフラットに並んでいる。自分の作品をどのような観客に向けて放つのか、という「観客の設定」がエンターテインメントの大枠を決める。ソーシャルネットワークが浸透するなか、作り手と観客の関係が多様化していくに伴い、「エンターテインメント」という枠組み自体もますます多様化していく。この現在進行形の状況を、審査のなかで幾度となく実感することとなった。
    大賞の『Perfume "Global Site Project"』は、Perfumeというマスな世界のアイドルを、ネットのなかの「職人」たちに解放することで大きな拡がりの現象を生み出した。Perfumeというモチーフが、一握りのプロ集団から、かつての観客であった数多くの「小さな作り手」へと拡がっていく。そしてその彼らそれぞれによる作品が、彼らそれぞれの観客へと拡がっていく。その連鎖によって従来のPerfumeというアイドルの観客を超えた拡がり─いわゆる「クラスタ越え」─が鮮やかに実現されていた。優秀賞の『勝手に入るゴミ箱』を最初に目撃したのはニコニコ動画だった。非常に高度で発明的なデバイスの製作過程を、「ちょっと作ってみました」的な軽い口調で淡々と紹介していく映像が、まずニコ動というコミュニティに投げられ、「すげえよw」といった弾幕コメントとともに再生される、その風景自体が衝撃的だった。いわゆるメディア/デバイス系の作品のなかで暗黙的に行なわれてきた従来の「観客の設定」から大きく逸脱したこの作品の「放たれよう」自体が、ひとつの象徴的な出来事として映った。
    上記2作品のような、まったく別の場所にありながらも、現在の状況をそれぞれ違った角度から照らし出すような作品たちを見つけるために、すべてをフラットに並べ、ふんわりと評価していくことが「エンターテインメント部門」の面白味なのかな、というのが今回初めての審査における感想であった。
  • 久保田 晃弘
    アーティスト/多摩美術大学教授
    エンターテインメント=未来の予感
    技術や産業と密接に結びついたエンターテインメントの世界は、メディア芸術の4つの部門のなかでもとりわけ変化が速く、これからのメディア芸術の世界を予感させる作品が、数多く応募される部門です。今回、大賞を受賞した女性3人組のテクノポップユニット「Perfume」をめぐる、一連のイベントとそのリアクションは、まさに今日のエンターテインメントを象徴する事件と言ってもよいでしょう。モーションキャプチャや距離センサー、画像解析を巧みに使って、身体や衣装に密着した印象的な表現を行なうだけでなく、何といっても特筆すべきなのは「Perfume global site」というウェブサイトを通じて、彼女らのモーションキャプチャデータを公開し、ファンが思い思いに活用できるようにしたことです。ここ何年か、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及やCCライセンスの拡がりによって生まれつつある共有の文化が、いよいよ経済や産業と直接結びついてきたことを実感させてくれる、今回の大賞受賞に相応しいチーム活動であると言えるでしょう。それだけでなく、ハードウェアとソフトウェアが見事に統合された、人型四脚エンジン駆動の巨大ロボ『水道橋重「KURATAS」』、脳波とガジェットをポップに結びつけた『necomimi』、超巨大なポリゴン立体を軽々と操作できる緒方壽人の東京スカイツリーでの展示、デジタル・ファブリケーションやFacebookの裏側を楽しくチクリと見せてくれるヌケメの『グリッチ刺繍』やIDPWの『どうでもいいね!』など、大きいものから小さいものまで、ハードなものからソフトなものまで、クリエイティブ・カオスと呼べるほどの若々しいごちゃまぜ感が、特に印象的でした。もちろん、映像やゲームといった、伝統的なメディアを用いた作品には、豊穣な熟成や繊細なディテールを感じさせるものも多く、それがまたこの分野の懐の深さを感じさせてくれました。未来は予感のなかにあります。そして今回のすべての応募者に、エンターテインメントという未来が開かれています。どうもありがとう!
  • 寺井 弘典
    誰もが夢見る根源的・本能的想像に応える作品たち
    今回の審査で特に印象に残ったのは、それぞれの作品が「普遍的欲望」や「本能」に根ざしたものに発想の根拠がありながらも、新しい体験や新しいクリエイションへ、その時代の感受性へと昇華していることだ。去年のようなイベントやシェアではなく誰もが夢見ている根源的欲求に忠実に応えていることに驚かされた。
    ウェブ、映像、ガジェット、ゲーム、ステージ映像など、それぞれのメディアの特性を活かしながら、テクノロジーの新しさだけに依存するのではなく、表現の成熟へと向かっていることがはっきりと認識できた。大賞の『Perfume "Global Site Project"』(真鍋大度/ MIKIKO /中田ヤスタカ/堀井哲史/木村浩康)はデータのオープン化で多くのクリエイターの創作意欲を刺激し、クリエイター同士が相互に刺激しあって多種多様なダンスビデオがネットに上がるという広がりのある試みが行なわれた。優秀賞『あさっての森』(三木俊一郎)は長年売れっ子CMディレクターとして活躍した監督が私財をかけてつくり出した帰結としての、なんでもアリの完全フリーダム・ムービーに仕上がっている。優秀賞『勝手に入るゴミ箱』(倉田稔)は究極のゴミ箱のあり方を提示し、優秀賞『水道橋重「KURATAS」』(倉田光吾郎/吉崎航)はロボットパイロットになる夢をかなえ、優秀賞『GRAVITY DAZE /重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』(外山圭一郎[GRAVITY DAZE チーム])は重力操作というきわめて根源的な発想で、誰もが重力から自由になる欲望に駆られるゲームになっている。
    このエンターテインメント部門に応募され、入賞した作品群は、表面的な最新のトーンやモードに目を奪われてしまいがちだが、個々の作品をじっくり観ていくと普遍的な夢や欲望に根ざしていることがはっきりとわかる。そこには無意識の集合知的なものや、未来のエンターテインメントの可能性を読み取ることができるのではないか。
  • 岩谷 徹
    ゲームクリエイター/東京工芸大学教授
    「今」をどのように見つめ、どのような態度で芸術に向かうのか
    混沌とした世界情勢や将来の見えない不安と閉塞感などが、作品に反映してしまうのではないかという思いは杞憂に終わった。若者は元気であった。応募作品を通じて感じたことは、環境に惑わされずに自己表現するクリエイター魂の強さと、「今」を敏感に感じ取ってしたたかに作品に変貌させる器用さに驚かされたことである。
    メディア芸術は過去を振り返らずに「今」を反映するものであるが、エジソンの発明した蓄音機というメディアはレコードやCDを介して配信メディアの時を迎え、音楽という芸術を一般に定着させていった経緯があり、コンピュータ・情報端末というメディアも楽しむメディアとして今まさに成熟してきた感がある。このようななか、今回応募してきた多くのクリエイターたちは、これからの時代を創っていく立場にあるということは確かで、彼らが「今」をどのように見つめ、どのような態度で芸術に向かうのかが問われていくに違いないと考えている。
    自身の関係した初期のビデオゲームの映像・動作プログラムの総データ容量はわずか5KBであったため、厳しい制約のなかで遊びの要素を最大限かつシンプルに組み込むためにはどうすればよいかという態度で臨んだことが思い出された。現在のビデオゲームではブルーレイディスクであれば最大25GB(5KB比500万倍)のデータが使用できるためか、いたずらに情報データをシャワーのように使用者に浴びせかけてしまっているのではないかと感じてしまう。本来人間が持っている、少ない情報量でイメージを膨らませる感性が衰退しないように作り手も注意していかなければならない。メディアを通して楽しむエンターテインメントに関しては、表現者も受け手も比較的リラックスした態度で臨むことができたが、画像処理やセンサー技術などの表現処理媒体が出揃ってきた昨今の環境を鑑みると、楽しむだけの作品からさらに「意義のある存在」に昇華させていく、本来の意味での「創意」が今後はますますクリエイターに求められていくと思われた。
  • 伊藤 ガビン
    編集者/クリエイティブディレクター
    今日もどこかで情熱が燃えている
    エンターテインメント部門には、ウェブ・映像・ゲーム・ガジェット等々、多種多様なジャンルから作品が集まる。今年で審査3年目の私は、どうしてもこれらジャンルの浮き沈みというものを読み取ってしまう。その結果、ウェブの不調とゲームの成熟を強く感じた。ウェブの低調は意外だった。世の中では紙からウェブへ(電子書籍を含む)の波は留まるところを知らず、広告の投下量を含めて好調に見えているジャンルである。しかし今回は、新しいアイディアは少なく、ソーシャルメディアを使った「つながり」ばかりが強調された作品が多かった。新人賞の『どうでもいいね!』はそうした状況に対するいらだちを表明した唯一の作品だったので評価されたのだろう。ゲームの成熟というのは、アクションRPGやFPS(一人称視点(ファースト・パーソン)シューティングゲーム)に顕著だが、ゲームの制作手法が完成に近づき、シナリオやグラフィック、プレイヤビリティの向上に注力されている印象を受けた。良きにつけ悪しきにつけ「新規性」はこの市場の中心テーマではない。
    しかし大賞や優秀賞に残った作品は、そうしたジャンルの浮き沈みとは関係なく、果敢にチャレンジをした作品となった。『Perfume" Global Site Project"』は、コンシューマによる創作という動きを巧みに作品に採り入れたもので、つながりを強調することなく結果的に人々がつながる体験をもたらした。『GRAVITY DAZE /重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』はゲームジャンルで唯一と言っていい、新しいゲーム体験を見事にまとめあげた作品だった。また『水道橋重工「KURATAS」』や『勝手に入るゴミ箱』など個人の圧倒的な妄想力と技術力を発揮した作品には希望を感じた。
    ジャンルの浮き沈みはこれからもあるだろう。しかし最終的には制作者一人ひとりのわけのわからないがむしゃらな情熱によって未来はつくられていくのではないだろうか? 今日もまたどこかでそのような情熱が発光していることを願う。