16回 受賞作品アニメーション部門Animation Division

大賞

優秀賞

新人賞

審査委員会推薦作品

審査講評

  • 和田 敏克
    アニメーション作家
    「完成度」と「オリジナリティ」の力
    短編約370作品をすべて鑑賞・審査してゆくのは、楽しく、そして興味深い作業でした。国内外どちらにも言えることですが、映像・アニメーションを学ぶ学生やその卒業生たち、若い世代の作品の元気が、とにかくイイ! デジタル制作の一般化で、プロ/アマの機材環境の差がなくなったこともありますが、同じ道具を使うからこそ、ダイレクトに志を追求した力のある作品の印象が強く映ったのかもしれません。プロは負けていられない! 特にその世代の作品で興味深かったのは、海外では高度にプロフェッショナルな完成度を極めた、スタッフワークによるエンターテインメント短編志向が強いこと。それに対し、国内では、むしろ既存の「プロのような」作風に捉われず、どこからやってきたのかわからない(?)くらい、独創的でレベルの高い個人作家作品が目を引いていたことです。今回は結果的に、圧倒的なオリジナリティを持った国内作品からの選出や推薦が多くなりましたが、それでも海外からEmma De SWAEF/Marc James ROELS『Oh Willy...』のような素晴らしい作品の参加に立ち会えたことは喜びでしたし、そのようななかでこそ、大友克洋『火要鎮』の、世代を超えた堂々たる「完成度」と「オリジナリティ」の力は、まさに大賞に相応しいものと感じました。
    そして、こと短編に限っては、海外からの応募が国内より多かった(!)ということもオドロキです。それは日本のこの「メディア芸術祭」が、学生を含む海外の作家からも注目を集める国際芸術祭に成長しつつある、ということではないでしょうか。元来が国内/国外のみならず、プロ/アマ、商業/インディペンデント、長編/短編の垣根さえ設けない、開かれた芸術祭ですから、これはもう、もっともっと国内外の作品にレベルの高いせめぎ合いを繰り広げていってもらいたい! 互いに刺激を受け合いながら、その「完成度」と「オリジナリティ」を切磋琢磨していってもらいたい!そして自分もそこにドンドン参加し、立ち会ってゆきたい!と、初めての審査を終えて、今そう思っています。
  • 古川 タク
    日本の短編アニメーションの多様性
    今年に限っての目立った特徴があったとは思わないが、年々日本の短編作品の層の厚さが感じられてそこは嬉しい。実は今回の審査委員会推薦作品をこの本数に絞り込むのは大変であった。惜しくも選に漏れた作品のなかにも興味深い作品や素晴らしい完成度の作品がたくさんあった。最後の決め手となったのは過去作品との比較で、このタイプのものでは以前にもっといいのがあったとみなされた作品群が姿を消した。  海外からの応募も増加して、明日からでも世界の大手制作スタジオで働けそうな学生CG作品もいっぱい応募があった。が、テーマや作風に、勝手気ままな個性が光る日本の作品のほうが観ていて面白かった。言い換えると、それだけ海外の、特に学生作品などは産業に直結していて、就活も視野に入れた、学んできたスキルを前面に押し出しているものが多く、その分作品としての個性的な魅力に欠けるということかもしれない。どっちがどうとは言えないが、日本の若手による短編アニメーションにせっかく優秀な人材が育ってきているので、商業アニメーションの世界ともう少し接点があってもいいかな? CGや美術の現場ではすでに活躍中の人も多いが、原画、作画監督、演出というコースの外にも優秀な才能がいる。
    あとはCGと手描きアニメーションの融合、いわゆるハイブリッド化したアニメーションの日本スタイルが完成しつつあるということなのか、大賞の『火要鎮』、優秀賞の『アシュラ』、新人賞の『LUPIN the Third ~峰不二子という女~』がいずれも素晴らしい出来で高得点を獲得した。外国作品のなかでは『Oh Willy...』の持つ芸術性が断然光っていた。
  • 氷川 竜介
    映像表現のさらなる進化と発展を求めて
    アニメーション部門は世界中から年々応募作が増加しており、今年も受賞候補を絞り込むのに嬉しい悲鳴を上げることとなった。デジタル技術の進化が非常にわかりやすく、見た目の質に反映しやすい分野であるため、年を経るごとに高水準の作品が増えている印象がある。短編応募作は国際化が著しいが、日本作家の実力も相当なものだと感じた。大賞作の『火要鎮』は江戸時代の大火という「和」の文化をアニメーション映像として再現する試みが、『AKIRA』で国際的に著名な作家・大友克洋から発せられた点が興味深い。「日本独自のアニメーション」には未開拓の部分が多く残っているのである。
    第14回(平成22年度)、15回(平成23年度)ともにテレビアニメーションの成果が突出したが、今回は「2012年はアニメーション映画の当たり年」と言われるほどタイトル数が急増した世情を反映し、劇場用作品が目立つ。3.11前からの企画が多いはずだが、"生命とその継承"を主題にした作品が多いのもひとつの傾向だろう。キャラクター含めてCGの用法を一歩深める挑戦的な作品も多い。優秀賞受賞作『アシュラ』は極限状態での生死を扱ったシビアなテーマを反映し、ブレイクスルーの予兆を感じさせる表現力を持った作品で、今後の転機となることが期待される。同時に「手作り感」を重視した作品も多い。アニメーションとしての柔らかい動きを重視した優秀賞受賞作『おおかみこどもの雨と雪』など作画の豊かさが感じられる一方で、新人賞の『LUPIN the Third ~峰不二子という女~』など線のタッチを活かした作品もあって、実に多彩であった。
    多種多様な技法をハイブリッド化した表現力の幅広さということでは、今が「旬」であろう。例年のことではあるが、審査委員会推薦作品まで含めて全容をぜひ確かめて、この豊かさを実感していただきたい。そしてその全体像が発するオーラが新たなクリエイターを触発し、ますます応募作が発展的に増加することを切に願っている。
  • 押井 守
    映画監督
    「日常」という主題の台頭
    「物語」の退潮が著しい。
    あるいは「物語る意欲」がアニメーションの世界から喪われつつある、と言うべきかもしれない。おそらくここ数年の傾向だと思えるのだが、テレビシリーズ、映画作品を問わず「物語」が大幅に退潮し、それに代わって「日常」という主題がアニメの世界を席巻しつつあるらしい。日常における登場人物の感情の機微を描く─というより、もっと直截に「気分」を描くことに終始する作品が、明らかに増加している。それはもはや傾向というより、あたかもひとつのジャンルとして形成されたかのような印象すら抱かせる。
    劇的なるものが、もはや以前のようには求められていないのかもしれない。
    だが制作者の側からするなら、それでいいのかという思いは残る。なぜなら少なくとも日本におけるアニメーションの歴史は、ただひたすら劇的なるもの、物語を語ることのみを追求してきたからであり、結果としてそれが日本のアニメーションに、ある独自性を生み出してきたからだ。その表現が稚拙であったにせよ、物語を語ることに特化する、そのことで獲得された独自の表現形式を、いとも簡単に投げ捨てて、ではその次にどのような表現が立ち現われてくるのか。
    「日常」なるものが、それに代替しうるとは思えない。物語の退潮という状況のなかで、新たな物語を語る意欲を示したいくつかの作品を推した、それが最大の理由でもある。