15回 マンガ部門 講評

人間の生きる方向を考えさせる作品が集結

過去数回トップを競った歴史大河ものが影を潜めた代わりに、新しい傾向が出てきた回であった。大賞の『土星マンション』はSF作品だが、宇宙コロニーの生活の手触りや人々の絆の温もりを感じさせる超アナログな描写によって、未来とはいえ人類の確かな一歩を見ているようでもあった。そして、直接大震災と原発事故に切り込んだ優秀賞『あの日からのマンガ』と並んで、人と場所の分かち難い関係を考えさせるという側面もあった。その意味で『秘密』も人と記憶という問題を扱っており、我々人間の将来の生き方の方向について、まざまざと考えさせられる作品が揃った。
しかし何より、今回顕著であったのは海外マンガの翻訳が最終ノミネートに勢揃いしたことである。『皺』の老いといい『ファン・ホーム - ある家族の悲喜劇 - 』のジェンダーといい、日本マンガでも扱っているテーマではあるが、欧米ならではの観点はなかなか日本人にないものも多く、いろいろな発見がある。
出版各社には今後も粘り強く世界中の傑作を発掘してほしい。新しく始まった新人賞は、伝統的な江戸人情もの、同人誌出身ならではの実験的趣向、Web向けの意外にシンプルだが味わい深いスタイルと、三者三様の個性が揃ったことが面白い。
そして、紙媒体以外のデジタルマンガであるが、まだ特有の新しい作品が続出というわけにはいかないようである。ただ、市会議員やグラフィックデザイナーといったマンガのプロではない別の分野の専門家の健闘が目立っており、アマチュアの裾野の広さを感じる。

プロフィール
細萱 敦
東京工芸大学准教授
1963年、東京生まれ。早稲田大学文学部卒業、同大学漫画研究会出身。東京工芸大学芸術学部マンガ学科准教授。 日本マンガ学会理事。 マンガ研究家。川崎市市民ミュージアム学芸員として数多くのマンガ展を企画。主な編著書に『日本マンガを知るためのブックガイド』(アジアMANGAサミット実行委員会事務局)、『アジアMANGAサミット』(子どもの未来社)などがある。手塚治虫文化賞、読売国際漫画大賞の選考委員を歴任。海外マンガ事情に広く精通している。