10回 受賞作品アート部門Art Division

大賞

優秀賞

奨励賞

審査委員会推薦作品

審査講評

  • 原島 博
    東京大学大学院教授
    【作品カテゴリ別講評】Web
    インターネットのウェブがまだ珍しかった頃、洒落たホームページはすぐ話題になった。それが今では、あっという間に当たり前の日常になった。そのような時代にあって、アートとしてのウェブ作品は、いま大きな曲がり角に来ているように思える。そこで主張すべきは、単なる絵画的あるいは映像的なアート性ではない。それでは単独の絵画あるいは映像作品と差別化できない。一方で、いかにホームページのメッセージ性が高くても、表現のレベルが高くなければアート作品とはいえない。今回も多くの興味深い作品の応募があった。しかし、残念ながら今年もウェブからアート部門の受賞作品が選ばれなかった。ウェブならではのアート性に優れた、突出した作品を見いだすことができなかったからである。
    来年こそは新たな時代の到来を予感させる意欲作を期待したい。
  • 浅葉 克己
    アートディレクター
    【作品カテゴリ別講評】静止画
    一点の静止画で時代は変わると思い続けている。ショックを与えてほしいのだ。頭をガーンと叩いてほしいのだ。芸術とはそういうモノだ。大きな空間での個展やインスタレーションのなかで中心に位置する静止画や、エディトリアルデザインのなかで繰り返し、繰り返し訴えかけてくるヴィジョンとは違って、雑然と並べられた公募展会場から、この一点を選び出すのは難しい作業だ。長谷川祐子さんの鋭いひと言に支えられて11点の推薦作品を選び出した。中江昌彰さんの『ROCKET』、夕焼け空のなかを高速で鉄道で運ばれていくROCKET、鹿のいる公園のなかに設置されたROCKET。異空間との対比がおもしろかった。過去受賞作である橋本典久さんの『lifesize』や加納佳之さんの『機関紙』、太湯雅晴さんの『太湯銀行券』のような、日常のなかでの密度ある作品に出会えなかったのがすこし寂しい。やはり林俊作君の大作『Sagrada Familia計画』に注目が集まった。
  • 原田 大三郎
    多摩美術大学教授
    【作品カテゴリ別講評】映像
    この数年間、文化庁メディア芸術祭の審査から離れていたので、久しぶりに戻ってきて参加した今回の審査は、興味深いものだった。まず感じたことは、新人の登竜門的な存在である「学生CGコンテスト」で活躍している作家たちが、やはりここでもレベルの高い作品を発表しているという点。この現象に関しては賛否両論あるだろうが、個人的には喜ばしいことだった。次に感じたことは、いわゆるデジタルな制作環境から生み出されてくる合成技術を駆使した作品が多数あったという点。技術的には商業映画で行なわれているVFXと変わらないが、映画では見られない個人的な問題意識をもとにつくられている、その視線にユニークさを感じた。ただ作品として、あるメッセージを見る人に明確に伝えることに成功しているかという点には疑問が残る。全体としての感想は、アート部門の映像として、存在を際立たせるような作品が少なかったこと。これは作者というよりもメディアアートにおける映像表現自体が現在抱えているひとつの問題点だと思う。
  • 長谷川 祐子
    キュレーター
    【作品カテゴリ別講評】インスタレーション
    インスタレーション作品は大型の映像プロジェクションを空間的に展開するもの、彫刻的なもの、インタラクティブ性をもつものと多様な作品が見られた。バーチャル、フィジカルいずれにせよ目の前のリアリティに果敢に立ち向かっていく女性ボクサーの姿をとらえた『front』はシンプルだが、視覚的インパクトとセンシャルな感覚で新鮮だった。ハイスピードカメラですれ違う車中の人物を肖像としてとらえた『Drives』も、決して凝視することのできないすれ違う人々をより古典的なポートレートに転じたという意味で、そのアンビバランスが興味深かった。そのほか身体の動きが水の音を引き起こす『AQUATIC』、昆虫のランダムな動きと観客の動きが相乗して抽象絵画を生み出す『Media Flies』など、着想はとりたてて新しくないがインターフェイスと成果が洗練された作品、羽毛を夢幻的に浮遊させた『浮く冬』、塗り分けたピンポン球をピクセルにみたてたローテクが笑いを誘う『PingPongPixel』など、身近な素材を詩的かつ温かみをもって変容させた立体作品が印象的だった。
  • ヤノベケンジ
    美術作家
    【作品カテゴリ別講評】インタラクティブアート・その他
    本年度の応募作品は「技術力」と「作家表現」のバランスがうまくとれているものが多かった印象がある。『OLE CoordinateSystem』はゲームソフト的なツールに終わらず作家の意思が明確に現れる「動く絵画」、『×マンvibration』は装着する体験者を鑑賞するだけでイマジネーションが刺激される「動く彫刻」とみることができる。『Drawn』『素数ホッケー』などの子ども向け教育ソフト的な作品もハイセンスな表現力でまとめられている。高度なデジタル技術を「ユーモア」というエッセンスでやさしく美的にアナログ化する。それが今日的なメディアアートの方程式かもしれない。
  • 浅葉 克己
    アートディレクター
    高速でリードし、未来に継がれるアート部門
    文化庁メディア芸術祭は、アート部門が高速でリードしていかねば、未来は見えてこないと強く感じた。10回目を迎えて、世界中から注目される芸術祭に発展したことは喜ばしい。企画し、発展し、停滞するという世の慣わしに従ってはいけない。大賞は『Imaginary・Numbers 2006』。ミラノサローネで上映された、ディスプレイ映像だ。質の高い、繊細な線の宇宙が無限に動く画面は、世界中の人たちに感動を与えたと聞いた。優秀賞の『front』、パンチを受けた女性の顔が痛みとともに迫ってくる。インタラクティブアートの優秀賞『OLE Coordinate System』はエッシャーのイメージをうまく取り入れた秀作。インスタレーション、インタラクティブアート、静止画それぞれのジャンルから上位賞が出たことで、未来に継がれることが確認できた。